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ハワイ州憲法第1章第19節は、次のように規定しています。
「債務の故に投獄されることはない。」
ディッケンズの名作『デイヴィッド・コパフィールド』を始めとして、ヴィクトリア朝時代のイギリスを描いた作品には、債務者監獄の悲惨な状況が描かれているものがあります。借金を返さないことを理由として投獄された場合、誰かが代わりに債務を弁済してくれればいつでも出獄できますが、そういう親切な知己がいない人の場合には、自動的に終身刑を意味するのですから大変です。その非人道性が痛感された結果、債務の故に投獄されるなどということは、その後は無くなりました。
何でそんな古い制度の廃止を、米国で一番新しく作られたハワイ憲法は、わざわざ規定しているのだろう、と私が不思議に思ったのは無理もない、とご理解いただけると思います。少なくとも、日本国憲法にはありませんからね。
例によって、ヴァン・ダイク先生に伺ったところ、ここでもハワイにおける日系人の悲惨な歴史が投影しているということでした。明治以来、ハワイに渡った日系人達は、主としてサトウキビのプランテーションにおける労働者として働きました。プランテーションでの労働は、熱帯の太陽の下で、朝6時から夕方5時まで、休憩は昼食時のわずか30分という実に過酷な労働でした。それでいて、賃金は男で日給1ドル、女は75セントという低さでした。そこで、渡航費を借金でまかなったり、病気その他で負債を負うと、このぎりぎりの賃金では、とうてい返済不可能です。そうなると、債務による投獄という悲惨な事態が待っています。その収容場所としてプランテーションが指定されれば、結局奴隷労働ということになります。
ハワイの州昇格の時期まで、このような悲惨な制度が残っていたのだ、とヴァン・ダイク先生はいわれます。その意味で、この憲法規定の新設は、本当に意味のあることだったのだ、ということです。
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